夢じゃないよな・・・
今までの日常とはまったくかけ離れた、非現実的な世界に迷い込んだような。
これから副会長と会長とどんな風に接していけばいいんだろう。
昨日、記憶を消そうとした時とは正反対の、明るい表情だ
放課後に監督生室にて吸血鬼のことについて教えてもらうことになった。
待ち遠しいような、少しだけ怖いような気分だった。
曰く、普通の人間と比べて身体能力が高い。
人くらいなら吹っ飛ばせるし、吹っ飛ばされても平気。
体はある程度丈夫、怪我をした時の回復も早い。
小さな怪我なら一分くらいで完治する。
病気もない、寿命もない。ただし不死ではない。
因みに副会長は同い年で会長は人間だったら長寿新記録になるかもしれないらしい。
特別な能力は先日されかけた記憶消去くらいのものだ。
普通の食事をしなくても、血を飲めば生きていける。食事はカモフラージュ。
そしてステレオタイプに言われるように、血を吸われた人間が吸血鬼になることはないという。
この点に関しては驚いた。
今の時代、輸血用血液で事足りるのだ。副会長自身も態々人を襲うのはエレガントじゃないと思っている。
しかし、月に数回は補給しないと、血を飲みたくなる衝動に駆られ、どうしようもないのだという。
詳しいことはわからないし、自分たちがどういう存在なのか、知る方法はない。
医者にでも話そうものなら、人間とは別の生き物扱いをされて、治療どころじゃ済まないだろう。
能力はあるが、会長が言うようにか弱い生き物なのだ。個体数は人間に比べて圧倒的に少なく、
正体がばれれば、いつ駆逐されてもおかしくない状況にあるのだ。
血を飲まなければいけないことを別にすれば、それほど人と変わらない存在。
俺は吸血鬼の話を聞いて怖いとは思わなかった。
昨日の一件はともかくとして、何故俺は生徒会役員に選ばれたのだろうか。
会長には副会長のサポートだと言われた。息が合う相手じゃないと生徒会は務まらない。
確かに、このハイレベルな集団の中でやっていくのはそんな簡単な話じゃないだろう。
会長と東儀先輩のような、わかりやすく言えばツーといえばカーとなるような関係を求められているのだ。
間違ってはいないのだが、何か雲を掴んでいるかのような引っかかりがあるのだが、その正体は掴めず仕舞いのままだ。
初めのうちは仕事のやり方を覚えてほしい。実践あるのみと、
いきなりではあるのだが、体育祭の実行委員長を拝命する運びと相成った。
9月には会長も東儀先輩も引退する。この二人が抜ける穴は相当なものだろう。
本番まであと1ヶ月を切っている。いきなり務まるのか不安だ。
いつか頼れる生徒会役員になって、胸を張れる日が来るのだろうか。
生徒会は危険。ナベのフタだけ持って大気圏突入するくらい。
策略と謀略と疑念と疑惑とあとアレに包まれた場所。
とはかなでさんの談なのだが、司も言うように普通じゃないのは間違いないらしい。
その点に関してはここ半月の実体験を通じて十分に理解している。
それ以上に司もそうなのだが、かなでさんも只者ではない。
体育祭の実行委員長になったことを打ち明けた。今日は実行委員会第一回目の会議がある。
みんなに励まされて、体が軽い。こんな気持ちで仕事するの初めて。もう何も怖くない!
とはいえ、会議の場では静かな農村に入り込んだ不審者を見る村人のような目が俺に突き刺さる。
支持率は25%といったところだろうか。
会長の威光に頼るのはできれば避けたかったが、とりあえず、委員長だと認めてもらうことが重要だと思い、
フォローを貰いながらも自分の実体験をもとに抱負を述べ、何とかスムーズに事を運ぶことができた。
そういった意味では、一応の成功と言ってもいいのではないだろうか。
毎年恒例のオリジナル競技の案については一先ず保留だ。
今までたくさんの体育祭を見てきたと言ったからには、下手な案は出せない。
自分でも不思議なのだが、どうしてこんな発言しちゃったんだろ・・・
よくよく考えたら転校しようがしまいが、経験する体育祭の回数なんてそんなに大差ないじゃない!
自らの発言に希望と不安を同時に背負い込む結果となってしまった。最悪の展開を避けるのが精いっぱいだった。
さて、前回の日付より1週間も経過しているのだが、別に記録を怠っていたわけではない。
まるまる1週間何もなかったんだから仕方がないじゃない!
と、ひとりごつ。
副会長に挨拶したが、いつもより元気のない声が返ってきた。アレの日なのだろうか?
放課後資料を探すのを手伝ってくれるらしい。
非常にありがたい。ありがたい、のだが、やはりそれは1週間前からの懸念事項だ。
というか、一体どうして自分も何もしていないのか。一体何スロットなんだ・・・
資料によると、去年のオリジナル競技は竹馬競争と目隠しリレー、そして地雷原突破。
なんだこの物騒な競技は。寝癖なのか?
監督生室には白ちゃんがいた。二人が倉庫を探して、一人が監督生室を探すことになった。
一先ず、自分は力仕事が多そうな倉庫に行くことにして、副会長に監督生室を任せ、
白ちゃんには一緒に手伝って貰うことにした。
しかし、こんなときに東儀先輩の幻想が俺を襲ってくるのだ。
先輩は重度のシスコンなので仕方がありません。
見つけられないでいたところ、暫くして東儀先輩がやってきた。
一階倉庫の奥、左手の棚の3段目。確かにこの場所に資料があった。
東儀先輩は頼りになる。東儀先輩の生霊に邪魔されなければ見つかられたかもしれませんが、
Ifの話をしても仕方がありませんので、この件については割愛させていただきたい。トラスト・ミー
生徒会が終わり、風呂から戻ると、ベランダから二つの影が・・・
いともたやすく侵入を許してしまう。お茶会すること、風の如く・・・
もうそろそろ、プライベートのプの字も気にならなくなってきた。
せっかくだから、俺はオリジナル競技の意見を聞いてみた。
陽菜が玉入れならみんなで参加できる、と言ってくれたのでそれを聞いて、
どこかの学校で、水風船玉入れがあったのを思い出した。この線で行ってみることにしようか。
かなでさんが、『水風船で死屍累々っ☆』などという縁起の悪い名前を提案したが、
動物園に、ししるいるい見に行きたいな、という常人には理解不能な概念共々却下した。